人形の夢(一宮祭視点)

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side.沢山時雨 「間に合って良かった」 「ありがとうございます。助かった」 とにかく逃げなきゃいけないと思って死に物狂いで誰かの手を取った気がする。その瞬間にさっきまでいた人形は消えてしまったみたいだ。俺は怖過ぎて腰を抜かしてしまって、そのまま床に座り込んだ。 「凄かったね、赤い彼岸花が地面にばーって咲き始めて、地面が割れて2人が吸い込まれていくみたいに」 「そんな風になってたんですか。本当に死ぬかと思いました………え…………………」 助けてくれた声の主の方に顔を上げると、さっきの人形とそっくりな、これまた人形だった。たださっきの奴と目の色が違って、ヘーゼルの瞳をしている。 「僕の顔に何か付いてる?」 「いや…そっくり過ぎません…?」 人形は俺の驚いた様子がおかしいのかクスクスと笑っている。 さっきの人形よりも表情が豊かだし、顔色もいいんだけど…笑う度に関節が動く音がしてカチャカチャ鳴っている。 「君が白を選んでくれてよかった、赤だったらもう二度と会えない所だったよ」 「彼岸花の事ですか?」 「そうそう、あのまま赤い海に連れて行かれちゃう所だった。本当に良かった、悲しい思い出にならなくて」 人形は俺に近付くと、俺の頬に手を添えて愛おしげに見つめてくる。なんでだろう、凄く見覚えがある顔をしているのに誰だか分からない。俺の様子に気付いたのか人形は少しだけ悲しそうな表情になった。 「悲しい思い出って、彼岸花の花言葉ですか」 「そうそう、赤のね」 小学校の時に学校の花壇に咲いていて、担任の先生が詳しく解説してくれていたからたまたま知っていただけなんだけども。まさかこの雑学がこんな所で役に立つ事になるとは。赤と白で共通している花言葉は確か… 「『想うはあなた一人』『また逢う日を楽しみに』」 考えている事が被っていたのか、それとも先読みされたのか、人形が言葉を続けた。 「…俺の考えてることがよく分かりましたね」 「分かるよ。今までずっと見守ってきたから」 見守ってきた、か。 「もしかして俺の事が好きなんですか」 「片想いだと思うだなんて酷いなぁ。本人には絶対に言わないでね」 本人って誰だろうか。もしかして目の前で微笑んでいるこの人形は、誰か生身の人間を模倣して作られたものだったり? 「どう見ても男ですよね」 「好きでしょ、この顔」 …なんで自信たっぷりなんだよこいつ。
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