73人が本棚に入れています
本棚に追加
(やはり、この街の空気はどこか懐かしさがある。そのせいか)
裏口から出た路地は人通りも少なく、アラディアは次の店へと歩を進める。
――かあ、かあ
ふいに、カラスが鳴き声をあげた。
「ひゃ、ひゃああ」
転んだような物音。アラディアがそちらに顔を向けると、カラスに驚かされて尻もちをついている者がいる。赤い髪を切りそろえた、まだあどけない少女であった。
――かあ
アラディアが視線を向けると、カラスは羽ばたいていく。
「災難でしたね。身体は平気ですか?」
「は、はい、なんともありません」
「しかし、カラスの鳴き声にどうしてそれほど驚いたのですか」
「あ、いえ、あなたに話しかけようとしていて」
「……その割には遠かったですが」
「あの、声をかけようかどうしようか迷ううちに歩き出されていたので」
少女は立ち上がって土を落とすと、改めて言う。
「あの、すいません。あなたはメオロ酒造の人ですか」
同じ目線で見てみると身ぎれいにしており、ほんのりと香がかおった。
「私は出入りの薬屋に過ぎません」
「あのあの、あちらの若旦那さまのこと、なにか聞きませんでしたか」
「失礼ながら、あなたは?」
「あ、すいません。ラティです」
「……どちらのラティさんでしょうか」
最初のコメントを投稿しよう!