第一話 立ち切れ

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「あの、えっと、置屋ノルンの……」  アラディアの様子をうかがうように、上目遣いにラティが見てくる。 (芸者か)  置屋というのは芸者を置く店である。番頭の話からして、 (若旦那のお相手……の関係者だろう)  そのように思われる。  年齢からしてもおどおどとした様子から見ても、このラティという娘はまだ客前に出る前の見習いだ。件の若旦那のお相手とは、ちょっと思えない。 「お店のことはお店の方に聞いたほうがよろしいでしょう」 「お手紙を届けにあがっても、もう何日も留守だと言われるので……」 「それならばお留守なのでしょう」  アラディアが背を向けて歩き出すと、ラティがぱたぱたと追ってくる。 「あのあのあの、薬屋さんなんですよね」 「そうですが」 「あの、若旦那のことは、お店に聞きます。聞きますけど」 「はい」 「姐さんのことを、診てもらえないでしょうか」  足を止めて振り向くと、涙目のラティが見上げていた。  ラティと比べれば身長の高いアラディアは彼女を見下ろす。ラティの灰色の瞳はうるんでおり、なにか店の仕事というものを超えた必死さを感じさせた。 「……よいでしょう。ただ頼みがあります」 「あ、はい、なんなりと」 「裾から指を離してください」     
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