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「あの、えっと、置屋ノルンの……」
アラディアの様子をうかがうように、上目遣いにラティが見てくる。
(芸者か)
置屋というのは芸者を置く店である。番頭の話からして、
(若旦那のお相手……の関係者だろう)
そのように思われる。
年齢からしてもおどおどとした様子から見ても、このラティという娘はまだ客前に出る前の見習いだ。件の若旦那のお相手とは、ちょっと思えない。
「お店のことはお店の方に聞いたほうがよろしいでしょう」
「お手紙を届けにあがっても、もう何日も留守だと言われるので……」
「それならばお留守なのでしょう」
アラディアが背を向けて歩き出すと、ラティがぱたぱたと追ってくる。
「あのあのあの、薬屋さんなんですよね」
「そうですが」
「あの、若旦那のことは、お店に聞きます。聞きますけど」
「はい」
「姐さんのことを、診てもらえないでしょうか」
足を止めて振り向くと、涙目のラティが見上げていた。
ラティと比べれば身長の高いアラディアは彼女を見下ろす。ラティの灰色の瞳はうるんでおり、なにか店の仕事というものを超えた必死さを感じさせた。
「……よいでしょう。ただ頼みがあります」
「あ、はい、なんなりと」
「裾から指を離してください」
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