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クーパ橋から東へ行ったところにワルハラという区画がある。国家公認の遊び場であり、従業員に芸者を主とする置屋ノルンもこの区画に居を構えている。
二階建ての建物はメオロ酒造と比べれば猫の額のような狭さだが、それでも置屋としては十分に大きく、そこで仕事を待つ芸者らの話声は活気があった。
「なにか、不思議な匂いがします」
「えっと、あ、芸者はお香で時間を測りますから、そのお香の匂いでしょう」
「なぜ香で測るのです」
「えっとえっと、お時間ですというのも無粋とかで、お香が立ちぎれましたと言うんです」
「なるほど、お客との時間ですか」
「こういったお店は初めてですか?」
アラディアは嫌な顔をしたが、布で覆われているのでラティには伝わらなかった。
「こちらがクー姐さんのお部屋です」
通された一室は、二階の通りに面した陽光の良く入る部屋だった。
まだ明るいというのに布団が敷かれている。寝ている女は黒く長い髪にはっきりとした目鼻立ちをしており、よい器量ではあったが、頬はこけてやつれており痛々しい。
「よくありませんね」
「お医者様もこれは気の病だと仰って、ただ、もう三日も寝たきりなのです……」
「飲まず食わずで」
「はい。これまでは毎日のようにお手紙を書いていたのですが、三日前を境に」
「三日前に、何かあったのですか」
「あの……」
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