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ラティは目を泳がして、しばらくするとこう言った。
「若旦那とクー姐のことは、お聞きですか」
「いいえ」
「そうですか。あの、少しお話ししてもよいでしょうか」
頷くと、おずおずとラティは話し始めた。
去年、ギルドの寄合があった時に若旦那はメオロ酒造の名代として出席した。お酒の席もあり芸者もたくさん呼ばれ、そこで若旦那のお酌をクーロが行ったのだという。若旦那もクーロも初心なところがありおとなしい性質であったため、周りの喧騒とは反対に、まるでお見合いのように静かに言葉をかわしあう。その内に言葉だけでなく情も通じ合い、次第に若旦那がクーロに会いに来るようになった。週に一度が三日に一度、いつしか毎日に。
「八十日ほど前、クー姐が『若旦那に劇に誘われた』と喜んでいたんです」
「ずいぶん、親しかったようですね」
「はい。それで、その夜にクー姐の部屋の前を通ったら椅子に座っているんです」
「なぜ?」
「それが『もう髪を作ってしまったからベッドで寝たら崩れちゃう。だから寝ない』って」
「よろしくない」
「お母さん……女将さんが『それじゃ劇の途中でいびきかいちまうよ』って叱ったりして」
ラティはくすくすと思いだし笑いをしてから、顔をうつむかせる。
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