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「でも、若旦那はお越しにならなかったんです」
「メオロ酒造には?」
「その日からずっと、クー姐は毎日欠かさずお手紙を書いて、書き続けていたんですが」
「……三日前」
「そうです。三日前、思いつめた様子で手紙を書いて、それを渡すとあとはもう」
ぶるっとラティは身を震わせた。
「その手紙、少し見たんです。今生で会えぬのならば、と、細い字で書いてありました」
「こちらも恋煩いですか」
「こちらも?」
「いえ、気にせずに。では見せてもらいます」
枕元に座り、アラディアはクーロの顔を覗き込む。
ラティはまた震えた。それはクーロのことを思ってではなく、急に部屋の温度が下がったような気がしたからだった。春だというのに冬の隙間風が頬を撫でた気さえした。
アラディアはラティに向き直る。
「もう、いけません。寿命と思ってあきらめた方がよいでしょう」
「あのあの、そう言わず、なんとかならないですか」
「ご本人の心の問題ですから。余人が手を尽くしたところで、どうにもなりません」
「若旦那さえお越しになれば」
「それまでもたないでしょう。だいたい、この方はもう死ぬと決めている」
「なにか、少しでも効くお薬はないですか」
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