第一話 立ち切れ

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「でも、若旦那はお越しにならなかったんです」 「メオロ酒造には?」 「その日からずっと、クー姐は毎日欠かさずお手紙を書いて、書き続けていたんですが」 「……三日前」 「そうです。三日前、思いつめた様子で手紙を書いて、それを渡すとあとはもう」  ぶるっとラティは身を震わせた。 「その手紙、少し見たんです。今生で会えぬのならば、と、細い字で書いてありました」 「こちらも恋煩いですか」 「こちらも?」 「いえ、気にせずに。では見せてもらいます」  枕元に座り、アラディアはクーロの顔を覗き込む。  ラティはまた震えた。それはクーロのことを思ってではなく、急に部屋の温度が下がったような気がしたからだった。春だというのに冬の隙間風が頬を撫でた気さえした。  アラディアはラティに向き直る。 「もう、いけません。寿命と思ってあきらめた方がよいでしょう」 「あのあの、そう言わず、なんとかならないですか」 「ご本人の心の問題ですから。余人が手を尽くしたところで、どうにもなりません」 「若旦那さえお越しになれば」 「それまでもたないでしょう。だいたい、この方はもう死ぬと決めている」 「なにか、少しでも効くお薬はないですか」     
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