73人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただし、死ぬものを生かすにはそれ相応の代償が必要です。たとえば」
パイプからゆらゆらと煙が立ちのぼる。
「人の命は蝋燭の火のようだ、と言います。蝋は徐々に溶けていき、ふっと炎が消える」
「あの、あのあの、それがなにか」
「蝋燭はつぎ換えればまた燃えますが、人の命は簡単ではない。換える先がないのですから」
「あのあのあの」
「ただ、換えることができれば助かることはできる」
気づけば、あたりを煙が埋めていた。
濃霧、もしくは火事場の煙、そうとしか思えないほどに濃い煙があたりにただよい、ラティはすぐ近くにいたはずのアラディアの姿さえ見ることが出来なくなった。
「ここに二つの蝋燭があります」
煙が少し薄くなる。
アラディアは先ほどと変わらず座っており、蝋燭を二本突き出していた。一本は明るく燃える蝋燭で、もう一本はほぼ溶け切り消える間際という様子である。その二つをアラディアはラティの前に置く。揺れる二つの炎がラティの瞳に焼き付いた。
「元気なほうはあなたの命、消えそうなほうはクーロという方の命です」
「えっと……」
「信じないのならばそれでも結構。ただ気をつけなさい、火が消えた時、人は死にます」
最初のコメントを投稿しよう!