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ふう、とアラディアの吐いた煙に蝋燭の火が揺れると、慌ててラティはクーロの蝋燭を手で覆った。ゆらゆらとか細く光る炎はいまにも消えそうに思われる。
「お選びなさい」
「え?」
「炎を重ねれば、あなたの命と彼女の命が入れ替わる。あなたが死に、彼女が生きる」
「あの、そんな……」
「その蝋燭はお預けいたします。ただ、彼女の命はもって次の夜明けまで」
かん、とパイプを叩いて灰の音が響くと、辺りから煙がすうっと消えていく。
しかし二本の蝋燭は幻ではなく、そこに残り続けた。
「明日の夜明けには、必ず一人死ぬ」
外で、かあとカラスが鳴く。
いつの間にか夕暮れ時になっていたようである。
2
琴の弾き方を教えてくれたのはクーロであった。
『頭がわるい? あなた、そんな自分を卑下してはいけないわ。さ、もう一度』
目の前に琴がある。
ラティはその弦をゆっくりと弾いた。
『ほら、一節できた。上手。あなたは上手だわ。諦めてしまわないでね』
深夜、二本の蝋燭の揺らめく中、クーロの部屋に妙やかな調べが流れる。
クーロという芸者は、貧しいとはいえ騎士の家に生まれた。
貧しい騎士階級の次男三男が芸者の手伝いをするというのはよくある。しかし、クーロは少し事情が違い、ほとんど身売りに近い状態で置屋へ来たのだという。
『……おもしろい話ではないから』
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