第一話 立ち切れ

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 クーロ自身から聞いたことはなく、女将が時々そんな話をする。 『芸は好き。お琴を弾いていると、すべてが忘れられる気がするもの』  ラティ自身は、身売りされた身の上である。  父親がギャンブルで作った借金、その返済をするために売られた。それも格安だった。赤毛で、痩せぎすで、しかも幼い。とてもではないが娼婦として稼ぐことはできそうにない。かといって読み書きもできず物覚えも悪く、他に役立ちそうなこともない。  十ゴールドで買いたたかれた。  相場の半額。人の値段としてはあまりに安い。  おめえは役に立たねえな、というのが父親からの最後の言葉だった。 『あたしが仕込みますから、ここへ置いてあげてください。ね、母さん』  母さんというのは、女将のことだ。  置屋ノルンではそう言った。あちこち回された挙句にたどり着いたのがこの店で、ラティはここでクーロに出会った。何が気に入ったのか、クーロはラティを傍に置いた。  叩かれたことは一度もない。  叱られたのは、自分はバカだから愚図だからと卑下したときだけ。  少しでも物を覚えると褒められた。     
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