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「ごほっ、ごほ……」
乗合馬車の中へ風が吹いてきた。砂ホコリの混じった風で、乗り合わせた者たちは一様に目を閉じる。そのなかでも一人、咳を続ける若者がいた。
「ごほっ、失礼、失、ごっほごほ」
背を丸めて耐える若者に、声がかかる。
「……お薬を一つ、どうぞ」
「あ、これは、ごほっ、すみません、しかし、えっほ、持ち合わせが」
「薬の商いは先用後利と申します。どうぞ」
声をかけた者は、大仰な行李を抱えた薬屋である。
くすんだ花浅葱色の旅装に革の黒羽織をつけており、声からするとまだ子供、それも少女のようであった。白い指が薬の入った包み紙を男に渡す。
「これは、どうも……んっ……ああっ、おや、楽になってきた」
「ようございました」
「いや、助かりました。値はいかほどになりますか」
「持ち合わせがないと知って渡したのです。また会った時で結構でございます」
「それでは商いにならないでしょう」
「置き薬屋でございますから、私どもの商いでは利益が半年先など当たり前で」
この薬屋は乗合馬車に乗ったときから、乗客の注意を引いていた。薬箱の大きさと背格好の不釣り合いさ、春だというのに旅装の暑苦しさもそうであったが、
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