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「嘘です。その腰のものに剣片喰の紋章がついておりましたから騎士の出身であろうと」
「嘘をつくのはよくない」
「それにずいぶんと修行されているようにお見受けいたしました」
「あてずっぽうですか」
「あの薬を飲むと、お強い方は目が赤色に変わるのです」
「なにっ」
「嘘です」
「嘘をつくのはよくないなっ」
「薬を受け取られた手が、コチコチに固まっておりましたので」
狐のように薬屋が目を細めるので、若者は舌打ちをしてぷいと横を向いた。
揺れる馬車はやがてエドモントンの降車場につき、薬屋は編み上げのブーツで石畳の床を踏む。重そうな薬箱を背負うその背中に、若者が改めて声をかける。
「僕はウッドロウ、ケイプ・ウッドロウという。支払うときのために屋号でも教えてくれ」
「ああ、真面目な方ですね。黙っていれば得をするというのに」
「そんな不義理な真似はできない」
「私はアラディアと申します」
そう言って頭を下げたとき、一陣の風が吹いた。顔を覆っていた布がふわりとめくれあがり、その下の顔が露になった。不純物のない金色の髪と白い肌、春の女神も恥じ入ると謳われたディアナ王妃のように美しい。ウッドロウが声を失うほどだった。
薬屋ははっとして、慌てたように顔を覆い直す。
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