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このメオロ酒造は大店であり、エドモントン市内外に支店がいくつもある。
「なぜそう思われる」
「いいえ、なければよいのです。それでは失礼を」
「いや、ま、焦らず。お急ぎでもないでしょう」
「急いではおりませんが、次のお店もあるものですから」
店を任されている番頭も暇ではない。
「たとえばですがね、常備薬のほかにも薬はあるもんですか」
「色々とありますが、なにがご入用でしょう」
「気を静める薬……などは、ありますかな」
「ないことはないですが、処方の難しい薬も多い。どんな患者でしょう」
「いや、ま、誰と言って、うん……誰ということでもないのですが」
「では薬などいらないでしょう」
「い、いや、誰ということもあるんですがな」
「誰でしょうか」
「うーん……まあ、誰ってことはないんですが」
「どっちです」
番頭は飲み干しかけていたアラディアのカップに茶を注ぐ。
「えー、そうだ、これは近所のお話なんですがな」
「近所のお話ですか」
「そのお店では若旦那がやらかしまして、まあ旦那様も一人息子だけに悩まれたようで」
「なにをしました」
「店の金を使ったと聞きます。女に入れ込んだとか。おとなしい方ほど一度入れ込むと」
「近所のお話ですね」
「もちろん。それでまあ一族で話し合って、サメに食わせようということで」
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