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「はい。このように騒がれては、たとえ百日過ぎたとしても……」
番頭は頭を振ってため息を吐く。
「そのような事情でしたら、軽いものを処方いたしましょう」
荷の中を漁り、アラディアは薬包を取り出した。
「これを少しパイプに混ぜてお吸いになれば、多少は落ち着くことでしょう」
「おお、ありがとう、助かります」
「ただ舶来品で貴重なため、この量でもシルバーで十枚となります」
「結構ですとも。いや、ありがとう」
番頭が自ら裏口まで見送り、そっと耳打ちをする。
「このことは世間体がよくありませんから、内密に」
「ご近所のお話でしたら、もう忘れました」
「いやあ、ありがたい。またどうぞ、よろしくお願いしますよ」
戸を抜けて外に出ると、穏やかな風が羽織を揺らす。
アラディアは顔の布を押さえた。さきほどよりもきつく結んだために、もう風にめくれるということもないだろう。いきなり人に顔を見られたのは、いかにも悪かった。
(気が抜けている)
空は雲もなく、春の陽光が強く降りている。
見回すと辺りの建物はいずれも低く、大聖堂と王城だけがひときわ目立っていた。地上に虹を見ると謳われる大聖堂のステンドグラスは遠目にも極めて美しい。
常に波音が響き、周辺文化の中心である王都エドモントン。
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