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桜が舞い散る頃に別れたのは、これ以上深入りしてしまうのが怖かったから。
これ以上君を好きになったらどうなってしまうのか分からない自分が怖いから。
「情けない男ね。」
彼女は真っ直ぐに彼、浦田和彦を見つめながら言った。
侮蔑だったら良かった。けれど、彼女の瞳に浮かんだ感情は哀れみ。
彼は恥ずかしさに俯いた。
事実かもしれない。そうでないかもしれない。答えはどっちだろう。
「…まぁ、私だって大事な時間を煮えきれない人に渡すつもりは無いわ。だって人生は1度きりだからね。」
そう言って背を向けた彼女は眩しかった。
彼は相変わらず何も言えず、ただゆっくりと歩いていく彼女を見つめるしかなかった。
「だって仕方ないじゃないか」
掠れた声で彼は呟いた。
「これ以上好きになったらもう…」
もう?
彼は握りしめた手を見つめた。フラッシュバックするのはこの世で1番愛して憎んだ…
「君の全てを独り占めするしかないじゃないか」
ああ、君の肌の奥に秘められた脂肪と筋肉はどんなだい?血管は?
その首を締めて笑ってみせたら君はどんな顔を?
いや、まだまだだ。まだ、そんなにも愛せていない。
「ねぇ、これも俺からの愛情だっていつか分かる日が来るよ。幸せにな。」
桜が散っている。
ああ、いつか聞いた事がある。桜の木の下には死体が埋まっている。って。
それが真実ならなんて美しい話だろう。
舞い散る桜は彼女の涙。そして俺はその木の根元で何時までも座っていよう。彼女の寝顔を一晩中見つめていた頃のように。
「だから何時でも戻ってきていいんだよ。」
そう、桜が散る頃にもう1度…。
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