既視感

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「ええ。ただ非常に簡単に治る病気でもあります。家に帰ったらこの薬を飲んでください。明日には治っているはずです」 私は自分のデスクから錠剤をいくつか取り出して彼女に手渡した。 もちろん、薬ではなくただのビタミン剤だが、精神疾患においてプラシーボ効果は非常に有効だ。 「ありがとうございます!」 「いえいえ、医者として当然のことですよ。それと、お代は結構ですので」 「え!?お金は払いますよ」 「良いんですよ。明日になっても症状が残るようならいらしてください。その時は診察料をいただきますから」 「・・・わかりました。なにもかもありがとうございます」 お大事に。そう言って私は患者を見送ると、しばらくした後、看護婦が医務室にひょこっと顔を出した。 「変わった患者さんでしたね・・・」 「そうだね」 「明日も来ますかね?」 「たぶん。来るんじゃないかな?」 冷めてしまったコーヒーに口を付け、私は彼女のカルテに症状を追記した。 願わくば今ので治ればいいが、きっとまた来てしまうだろうから。 それこそ、私が本当の特攻薬を見つけない限りはずっと。 そして、忘れてしまうんだ。 自分が今やうちの看護婦であるということに・・・
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加