君の隣で僕は書く。

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 正確には、君のために書いていたものを書くのを止めた、というのが正しいかもしれない。  もっとも、その本はすでに君のためだけに書いていたものではなくなっていたし、「隣」という言葉だって便宜上の言葉にすぎない。  未完であることは確かなのだが、物語として完結したものもいくつかある。  だが、少なくとも、この物語は君の「続きは?」によって促されたものではないし、君の望む「ちょっと変わった強気な子」や「ややひねくれた主人公」は出てこない。  いや、あるいは、ややひねくれた主人公くらいは出てくるのかもしれない。  そいつを主人公とまで呼べるかは甚だ疑問ではあるが、登場人物が2人しかいないのであれば、主人公と称するのもやぶさかではないだろう。  ――いや、やはりそいつを主人公に据えるには、役者不足だ。主人公になれなかったからこその登場人物であり、そしてこれはそういう物語なのだ。  主人公不在の物語。  未完の本を語る物語ならば、それも相応しいのかもしれない。  欠けたものと、欠けたものを、掛け合わせたことによって、生まれたのだ。  あるいは、その本のページをめくり、ペンを進ませる「続きは?」が、また別の誰かによって生まれることもあるのだろうか。  その未完の本は、今日もまた未完のままである。
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