3月

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4月。 そうして私は、真新しい制服に身を包み、中学生となった。もちろん、ここでも今まで通り、積極的に他人に関わろうとは思っていなかった。思っていなかったのだが・・・。 「夢は、空を飛ぶことです!」 斜め後ろから、そんな声が聞こえて思わず振り向いた。と、目が合ってしまって、どきりとする。後ろめたいことなんて何もないのに、なんだか居心地が悪くなった。慌てて前を向こうとするも、それよりも早く、向こうがにこりと笑いかけてきた。どこまでも澄んだ、まっすぐな笑顔だった。 長い髪を、ふわりと揺らして、その子は席に着いた。 一通りの自己紹介が終わり、授業が始まる。しかし、私の頭の中は、斜め後ろに座っている女子生徒でいっぱいだった。空を飛ぶこと、とはまた、おかしな夢である。しかし、いたって真面目な夢のようで、堂々と言い放っていた。もしかして、不思議ちゃん、という子なのではないだろうか、と考える。色々なところを転々としてきたけれど、あの子みたいな子には出会ったことがなかった。 それに・・・と、振り返って目にした彼女の姿を思い出す。 ゆるくウェーブのかかった薄茶の髪は、明るい太陽光を反射して透き通っていた。一本一本が細くて、柔らかそうでもあった。目は大きくて、やはり髪と同じように少し色素が薄い。それを縁取るまつげは長く、まるで精巧に作られた人形のようであった。 誰もが見惚れるような、愛らしさ、美しさを兼ね備えた女子生徒だった。 そのような感想を抱いたのは、私以外にも多くいたようで、授業が終わるなり、その子の席には人だかりができていた。女子にも、男子にも囲まれて、あっという間に斜め後ろの席に座る彼女が見えなくなる。 もともと、目立つことが苦手で、消極的、進んで人と交流しない私は、その中に混じろうとはしなかった。気になっていないといえば、それは、嘘になってしまうけれど。あの様子だと、すぐにでもクラスの中心人物になってしまうのではないだろうか。そうではなくても、仲のいい女子グループがすぐにできるだろう。それもきっと、可愛い子の寄せ集めのような。 しかし、その予想とは反対に、彼女はクラスの中心人物になるどころか、孤立しているように見えた。みんなの興味の波も引いて、彼女の周りに人がいなくなったせいでそう見えるのかもしれない。
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