3月

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5月に入ると、もうだいぶ学校生活にも慣れてきた。ただ、ひとつ。授業中に感じることが多くなった「視線」を除いては。振り返って確かめたことはない。しかし、その視線は決まっていつも斜め後ろの席からのものであるように感じられた。特段おかしな行動をしていたわけでもない。なぜ、彼女が私のことを見ているのか、ただただ謎でしかなかった。 そしてその謎は、間も無く解けた。 その日、私は日直だった。放課後を告げるチャイムが鳴り響き、学校が一気に活気に満ち溢れる。その活気に後を押されるように、私も立ち上がり、書き終えた日誌を片手に教室を出る。向かうは職員室だった。生徒の合間を縫うようにして廊下を進み、目的の場所までたどり着く。扉には、「職員室に入る時には…!!」と書かれた紙が、丁寧にラミネートされて張り出されている。が、めんどくさいので、一瞥だけしてさっさと用事を済ませることにする。 教室に戻ると、件の美少女がいた。箒を手に、ゆるゆると掃除をしていた。 さっ。 さっ。 さっ。 と、箒を動かす動作も、彼女がするとこんなにも絵になるのかと感心しかけて、ふと我にかえる。今日の掃除当番は他にもいなかっただろうか。見たところ、教室には私と彼女しかいない。塾や習い事の都合で、他の当番の子達は帰ってしまったのだろうか。そんなことも、珍しくはない。珍しくはないのだが、流石にひとりで掃除をするというのは…。 気がついたら、箒を取り出していた。 それまで規則的に聞こえていた、教室の床を掃く音がピタリと止んだ。そっと彼女の方を見ると、彼女もまた、私を見ていた。
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