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(幽皓にまでこんな顔をさせるなんて。――兄上、何処にいるのですか)
いまだに、山に落ちた天翔は見つかっていない。竜帝は迦楼羅と共に戦死した。そう、宮廷の者達は噂していた。
けれど、今も天翔の無事を信じている者はいる。その内の一人を思いだし、伯儀は窓の外へ目を向ける。
「刹琳殿は、今日も山に出向いているのか?」
「はい。相変わらず、こっちが心配になるくらい必死に天翔様を探しています。ほんと、天翔様が羨ましいです。こんなにセッちゃんに愛されてるんだから」
窓の外、天翔の落ちた山に視線を向け、幽皓が苦笑する。
「そうだな……」
やっと、伯儀は表情を和らげた。その顔を見た幽皓は、安心したように息を吐き「そういえば」と、話しを切り出す。
「伯儀様はセッちゃんを妃として、後宮に迎えないのですか? 竜衆の女子は皇帝に献上しなくてはならない。あの掟は、まだ有効ですよ?」
「いや、止めておく。大切な人の想いを踏みにじるようなことを、僕は出来ない」
「それは、天翔様の事ですか? それとも、セッちゃんの事ですか?」
「両方だ」
ぼそり、と呟いた伯儀に幽皓は頭を掻く。
「伯儀様も、天翔様に似て苦労を背負い込む性格してますよね~。血筋って怖い」
「煩い!」
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