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「貴方が王座を奪うために?」 「それには、貴女の――私と貴女の精竜の力が必要だ」  天翔は刹琳の体を縛る縄を解いた。締め付ける感覚は無くなったが、どこか胸を抑えつけられているような気がする。 「私に着いてきていただけますね?」  温和な口調に反して、天翔の声は有無を言わせない強さをはらんでいた。彼は考える暇を与えることなく、刹琳の手を取ろうとした――その時だった。 「神姫である刹琳さまを脅す気か!」  邸を囲む塀の方から聞こえたのは、山を一緒に逃げていた鳳李の声だった。声のした方に視線を向けると、鳳李は塀の上にいた。 (よかった。無事だったのですね)  山から一人で降りて来たのだろうか。最後に分かれた時に意識のなかった少年の元気そうな姿に、刹琳は安堵する。  そんな刹琳の気持ちをよそに、彼は塀を飛び越えて一目散に天翔へ飛びかかろうとした。 「おやめなさい、鳳李」  慌てて刹琳は一声あげて引き留める。とたんに、鳳李の動きが止まった。 「……刹琳さま」  不安そうな顔をしてこちらを見上げてくる鳳李に微笑みかけると、刹琳は跪き、叩頭した。 「――分かりました。貴方が望むならば、どこまでもついて行きましょう」  これで、里を救えるのなら安いものだ。そのためなら、どのような待遇でも耐えられる。脅しのような言葉でも、受け入れられる。刹琳は覚悟を決めた。 「ありがとう、刹琳殿」  天翔は刹琳の両手を優しく握った。脅しの言葉などなかったような態度に、刹琳は戸惑いを覚える。 「話もまとまった事ですし、都へ向かいましょう。――早く都へ戻れば、陸族の里が襲われることもないでしょうから」  飛竜軍の一人が言った。  物腰が柔らかく、線の細い男だ。浅黒い肌と深い顔を見る限り、竜衆の一つ沙蛇(さじゃ)族の者だろう。涼しげな目元は微笑んでいるようだが、もともとそういう顔なのかもしれない。
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