4

1/9
211人が本棚に入れています
本棚に追加
/217ページ

4

 都近く、商人たちが四方から集まる町――楽安(らくあん)。  片田舎の陸族の里とは違い、少し歩けば物売りにぶつかるほど活気に溢れていた。威勢の良い声が行きかう中を、大人たちは真剣に品物を見極め、子供たちは親に品物をねだる。時々聞こえるのは、町を駆ける子供とぶつかり怒声をあげる物売りの声だ。  店の軒先には野菜から簪まで、さまざまな品が並んでいる。人々は物売りの声に誘われ立ち止る。町を流れる川には橋が架かり、軒先から溢れた商人が品物を広げていた。  目まぐるしいほどの人の渦を横目に、刹琳がいたのはとある茶房だった。 「刹琳殿、気分はどうだい?」 「大分、良くなりました。このように、水まで用意していただき、ありがとうございます」  茶房の軒先に座り、刹琳は水を一口飲むとほっと息を吐いた。  天翔は刹琳の横に腰かけると、胸元から出した白布で刹琳の額の汗を拭った。  思わぬ行動に刹琳はぎょっとする。 「いけません、天翔様。汗なら自分で拭けますので、お気になさらないでください」 「いいや、私がしたくてしているんだ。心配くらいしてもいいだろう?」  そう言われ、人畜無害な微笑みを向けられると何も言えなくなる。刹琳は再び熱くなる顔を誤魔化すように言った。 「と、ところで、飛竜軍の皆様はどちらへ?」 「あいつらなら、買い出しに行っているよ」 「買い出し、ですか?」
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!