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昔も、父方の従兄にこうしてよく噛みついていた。従兄が神殿へ忍び込み、会いに来てくれる度に騒ぎを起こし、我羅に叱られたものだ。
(懐かしいですね)
二年前に里を出た従兄を思いだし、刹琳は物悲しい気持ちになった。
ぼんやりと宙を見つめていると、何処からか陽気な音が聞こえてきた。
二胡や太鼓、龍笛の音色が跳ね踊るように通りを流れてく。里の祭りの日に聞こえてくる音と同じだ。
心逸る音楽に、刹琳は誘われるままに音の方へ目を向けた。
「あれは……?」
見ると、大きな箱馬車を町の人々が取り囲んでいた。
その前には、一人の男が立っている。
「さあ、さあ、お集まりの皆さま。これよりお目にかかりますのは、我ら芸人一座による妙技美技の数々でございます。見物料は頂きません。ただ、心を動かされた方がいらっしゃいましたら、このざるに皆様のお気持ちを入れていただければそれで結構。――それでは、まずはじめにご覧いただくのは、炎を操りし男達でございます!」
鶯色の衣を着た小太りの男が、男達の前に立ち弁舌滑らかに口上を述べた。
小太りの男に促され、馬車から二人の男がでてくる。男らは数本の棒を持っていた。顔の前に棒を出すと、二人は棒に向かって口から何かを噴きだした。とたんに、木の棒が真っ赤に燃え上がる。
見物人から驚嘆の声が沸き起こる。刹琳も驚き、無意識に体を前のめりにした。
食い入るように男達を見ていると、今度は火を点けた数本の棒を二人で投げ始めた。
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