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「何を言っているんだ。迦楼羅召喚に怒る竜神に近寄るなんて、自殺行為だ」 「これでも、わたくしは神姫ですから。竜神の使いとして、人間の犯した不手際はわたくしが謝罪いたします」 「分かった。だが、私もついて行く」  天翔は指笛を吹いて飛竜を呼ぶと、刹琳を横抱きにしてそれに飛び乗る。 「しっかり掴まっていろ」  天翔が短く口笛を吹くと、竜神に向かって飛竜が動き出した。 「竜神様! わたくしの話をお聞きください」  刹琳は竜神に呼びかける。宮廷を見下ろしていた竜神が、ぎらついた目玉を刹琳に向けた。  生暖かい鼻息が、刹琳の髪を舞い上げる。 「――わたくしは貴方様に仕える巫女、陸刹琳と申します。この度は、我々竜衆の過ちにより、迦楼羅を目覚めさせてしまいました。ですが、我々竜衆の心は貴方様の元より、離れておりません。その証拠に、こちらの宝玉を献上いたします」  刹琳は竜神に宝玉を差し出した。じっと、刹琳を見下ろしていた竜神が洞穴のような口を大きく開く。  鋭い牙と真っ赤な舌に刹琳は怯む。だが、差し出した手を更に高く伸ばした。 竜神は鋭い牙を剥け、刹琳の方へ飛んでくる。  銅鑼のような咆哮が空に響いて竜神の口がそこまで迫り、天翔が刹琳の肩を引く。刹琳はひるむことなく、手を伸ばしたまま竜神を見つめた。
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