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「君となら、悪くないと思ってしまったんだ――」 「何を、ですか? ……何が悪くないと、思ったのですか?」  刹琳は天翔が離れて行く気がして、天翔の指に自分の指をからめた。 「君と、普通に――一緒に里で暮らしてみたかった。玉座の事も、母親の事も、すべて忘れてしまいたかった」 「でしたら、忘れてしまえばいいではないですか。迦楼羅を封じて、一緒に里へ帰りましょう。貴方様でしたら、父上もきっと受け入れてくれますから」  刹琳は必死に天翔を繋ぎとめるような言葉を並べる。だが、天翔は首をゆっくりと横に振った。 「死ぬことなんて怖くなかったのにな」 「天翔様、何を――!」  独り言のような言葉に、刹琳はぞっとした。  天翔は刹琳から手を振りほどくと、無邪気な子供のような笑顔を浮かべた。 「だが、君を守れるのなら、悪くないのかもしれない」  何にも囚われない純粋な笑顔を初めて見た。その表情が今は悲しい別れの笑顔にしか見えない。  天翔は視線を落とす。飛竜の下にいるのは那阿我だ。 「黄竜と伯儀を頼んだぞ、刹琳」 「嫌です。勝手に頼まないでください! 心配なら、ちゃんと自分で見届けてくださいよ!」  刹琳の叫び声が虚しく響く。天翔は那阿我の背に向かって飛び降りた。
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