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迦楼羅が消えて伯儀が即位した後、刹琳は鳳李に里へ帰るように言った。
自分は天翔を探さなければならない。しかし、里の事も心配だ。それならば、鳳李に里へ戻ってもらい、父親に事情を説明してもらおうと思ったのだが――。
「早くあの男が見つかれば、刹琳さまも心置きなく鳳李と里へ帰れますから!」
息巻いて頑なに自分の後を追ってくる鳳李に、刹琳は頭を抱えた。
新しい王が即位した今、宮廷にいる意味はない。それでも里に帰る気になれなかったのは、いなくなった天翔のせいだ。
(わたくしを巻き込んだくせに、一人だけ逃げるなんて許しませんよ。神姫としての任を放りださせた責任を取らせてやりますから)
まだ帰るわけにはいかない。神姫を外に連れ出した責任を絶対にとってもらわなければ。刹琳は完全な黄竜を封じた胸に、手を当てた。
「天翔様! 貴方を意地でも見つけてやりますからね!」
鳳李に背を向け、刹琳は歩き出そうとした。その時、頬に冷たいものが当たった。
「――なに?」
張り付いたそれを、刹琳は摘まみ取る。見ると、それは白い小さな花だった。
不思議に思い、顔をあげる。
「油桐花……」
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