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「何の音?」
「いかがなさいましたか、刹琳さま?」
辺りを見回す刹琳に、鳳李が不思議そうに尋ねる。
「あれは――竜の声が、聞こえませんか?」
「竜の声、でございますか? いえ、聞こえませぬが?」
耳元に手を当て、鳳李は首を傾げる。
確かに刹琳には竜の声が聞こえた。今もなお、どこかからか声が聞こえる。助けを呼ぶような声が、木々の隙間に反響している。
寂しいと心に訴えてくる声に、刹琳は引き寄せられるように足を向けた。
「あっ、お待ちください、刹琳さま!」
駆け出した刹琳を、鳳李は手を伸ばして呼び止めた。その手をするりとすり抜け、刹琳はうっそうと木々の生い茂る山深くに入っていく。
「どこにいるのですか? もっと、大きな声で教えてください!」
刹琳は引き寄せられるように、竜の叫びに近づいた。
(胸が、熱い……)
心臓が飛び出しそうなほどに高鳴っている。きっと、胸に眠る黄竜が体から出たいと暴れているのだ。
刹琳は黄竜に急かされるように、山道を駆け抜ける。山深く入り込み、気が付くと迦楼羅が落ちた場所にいた。
そこには、迦楼羅の姿も竜神の姿もなかった。刹琳や宮廷の人々が何度も調べた場所には背丈よりも高い草木が茂り、岩や木には蔓草が絡まっている。
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