211人が本棚に入れています
本棚に追加
刹琳は辺りに耳を澄ませた。声は蔓草の絡まる藪から聞こえるようだ。
藪は刹琳の背丈ほどもあり、卵型をしている。藪に近づくと、ぴたりと鳴き声が消えた。
蔓草を引きちぎり、藪を裂いていく。すると、人間の肌が見えた。急いで、蔓草をはぎ取っていくと、現れたのは愛しい人だった。
「天翔様……」
刹琳は呟く。
覆われた蔓草の中で目を伏せた天翔が安らかに眠っていた。震える手を伸ばして天翔の頬に触れる。
とたんに、天翔は目を覚ました。
「刹琳……?」
「はい、刹琳にございます」
刹琳の目から涙があふれ出す。温かい雫が、天翔の頬を濡らした。
ぼんやりと濡れた頬に触れた天翔に、刹琳は飛び込むように抱き着いた。
藪が乾いた音をたてる。
「――わたくし一人に、黄竜は不相応です。それに、黄竜も天翔様の中に帰りたいと、煩くわたくしに言うものですから、困っていたのですよ」
天翔の存在を確かめるように強く抱きしめる。
「刹琳、泣くな」
天翔は刹琳をあやすように背中を撫ぜた。優しい手つきが懐かしく、余計に涙が出てくる。
最初のコメントを投稿しよう!