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「よかった。あの花を天翔様も見ていらっしゃったのですね」
そう言うと、天翔は不思議そうに目を瞬かせた。
「どういう意味だ?」
「なんでもないです。それよりも、まだ言っていませんでしたね」
刹琳は天翔を見上げ、天翔の頬に触れた。
「おかえりなさいませ、天翔様」
天翔の存在を確かめるように頬に手を添え、微笑んだ。
「ただいま――」
天翔はそう答えると、頬にある刹琳の手を握りしめた。
体を引き寄せられた刹琳は、顔をあげたまま目を閉じる。それを合図にしたかのように、天翔は刹琳に口づけた。
巻き起こった風が、二人を包み込む。
刹琳の中にいた黄竜が、再び二つに分かれた。二頭で一頭の竜は、しばしの別れを名残惜しむように啼いた。
口づける二人の頭上をぐるりと回ると、お互いの帰る場所が分かっているかのように二人の体に入っていった。
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