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「さあ、着きましたよ」   黄竜が首を下げると、天翔は刹琳の手を取り、地面に降りた。   刹琳は辺りを見回す。うっそうと茂る木々の隙間から、崖が崩れたような斜面が見える。そこには、大きな洞窟があった。   しかし、見回しても宿らしき建物はどこにもない。 「あの、宿はどちらに?」 「目の前にあるだろう? ――所謂、自然の宿と言ったところかな」   天翔は山肌にぽっかり空いた洞穴を指さした。 「貴様ら、刹琳姫さまに野宿などという下賤なことをさせる気か!」    鳳李は信じられないと、顔を青くする。 「鳳李、野宿とはもしや、屋外で獣のように丸まり一夜を明かすという、野性味あふれる行為の事ですか?」 「おや、刹琳姫さまは野宿をご存じなのですね」  驚きました、と廉は刹琳に言った。 「小耳にはさんだ程度ですが。――初めて知った時は、噂でしかない伝説的な行為だと思っていたのですが、まさか本当にこのようなことが行われているとは思いませんでした」  神殿では神姫としての勉学の他にも、様々なことを学ぶために本をよく読んでいた。一日中神殿にいるせいで、勉学に励むための時間は膨大にあったのだ。  その中で、野宿について書かれた文献を読んだことがある。 (本に書かれていた通り、地面に直接寝たり、屋根のない場所で火を起こして食事を作ったりするのでしょうか?)  本の中の世界だと思っていたものを、現実に見ることが出来るらしい。内心ワクワクしながら、刹琳は天翔を見た。  その瞬間、薄暗い雑木林に天翔の声が響き渡った。
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