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「わたくしは大丈夫でございます。ですが、里の者達が」
「それなら心配いりません。私の部下たちが残党を成敗していることでしょう」
刹琳は青年の言葉に、ほっと胸をなで下ろす。
「あの、どこの何方か存じませんが、里を救っていただき、ありがとうござっ――」
刹琳の言葉がそこで途切れる。
突然、青年の顔が近づいてきたと思った瞬間、唇に柔らかなものが押し付けられた。息を飲んだ刹琳は、目を見開いた。
唇に重なるのは青年の唇だった。気づいたとたんに心臓が大きく跳ね上がった。爪先から頭まで、雷が走ったような感覚が体中を駆け巡る。
刹那、激しい突風が刹琳と青年を包み込むように巻き起こった。
「――やはり、貴女だったか」
ようやく顔を話した青年の喜びに満ちた表情の意味を考えようとした時、刹琳の視界が高くなった。何かに臀部をぐっと押され、見る見るうちに上空へ体が昇っていく。
ぐらぐらと体が揺れ、刹琳は押し上げてくる何かに捕まった。手のひらに硬く冷たい感触がして、視線を下げる。
「これは、一体どういうことですか……」
触れていたのは、爬虫類によく似た金に近い黄土色の鱗だった。鱗の先を辿っていくと、蛇によく似た二つの顔が振り向いた。深くくぼんだ鱗の下に、金色の双眸が光っている。
刹琳が跨っていたのは二つの顔を持つ黄金の飛竜だった。
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