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「おー、よしよしよし。るーるるる、良い子でちゅねー。今日も良く頑張りまちたねー。すぐにごはんですから、いい子でまってるんでちゅよー」  破顔し、紅潮した頬、下がりきった眉。天翔の顔は普段の精悍な表情とはかけ離れていた。甘ったるい猫なで声を聞きながら、刹琳は目の前の光景が信じられず、金縛りにあったように動けなくなった。 「――滑らかな鱗、鋭い爪にどっしりとした体! お前たちは本当にかわゆいなぁ。ほぅら、ご飯ですよ。いっぱい食べるんだぞぅ」  竜の首に両腕を回し、天翔は竜にほおずりしている。  世にも恐ろしい光景に、寒気がした。刹琳は脱兎のごとくその場から離れると、廉の胸に縋り付いた。 「あ、あの! 天翔様は、なにか悪いものにでも憑りつかれたのでしょうか? それとも、わたくしが憑りつかれているのでしょうか? これは、幻覚かなにかでしょうか? ……廉様、一度わたくしをおもいきりぶってください」  刹琳は廉の胸元を掴み、がくがくと揺さぶる。 「刹琳姫様。目を逸らしたいかもしれませんが、これは現実です。天翔様は無類の竜好きなのですよ。竜の事となると、少々人格が変わってしまうのです」  恍惚とした表情で飛竜にしがみ付く飛竜軍の大将軍を、廉は慣れた様子で説明する。  天翔は恋する乙女のように頬を赤らめ、飛竜と戯れている。当の飛竜は、煩わしそうに首を振った。それでもしつこくしがみ付く天翔の頭に、飛竜が噛みついた。
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