6

8/10
前へ
/217ページ
次へ
「すみませんね。うちの軍はいつも麦飯なんで、竜衆のお姫様のお口には合わないかもしれません」  鍋を物珍しげに除く刹琳に、龍乾は嫌味っぽく言った。 「いいえ、とてもおいしそうです。このように湯気の出た食べ物を見るのは初めてなので、驚きました。それに、とてもいい匂いです」  椀に注がれる前の粥を初めて見た。いつもは、食事の時間になると、巫女たちが一品ずつ部屋に運んでくる。毒見を行った状態で運ばれてくる料理は、その時には既に冷めた状態になっている。 (出来立ての料理というものは、こんなにも良い匂いがするのですね)  湯気に乗って運ばれてくる匂いを嗅いでいると、空腹を急に思い出した。よく考えると、里が襲われた後、まともな食事をとっていなかった。目まぐるしい一日だったせいで、空腹だということも忘れていたようだ。  刹琳がお腹をさすっていると、目の前に黒い椀がつきだされた。 「ほら、アンタの分だ」  粥を注いだ椀を持っていたのは、龍乾だった。 「わたくしの分、ですか」  戸惑う刹琳に、龍乾は無理やり椀を持たせた。  黒い漆塗りの椀に、白い粥がなみなみと注がれている。粥と共に渡された匙を持ち、刹琳は粥を見つめた。 「どうした、食べないのか?」  いつまでも食べようとしない刹琳に、龍乾は少し苛立った声で言った。 「あ、いえ、その……」  刹琳は視線を泳がせ、口ごもった。  はっきりしない態度に、龍乾は眉間のしわを深くする。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

212人が本棚に入れています
本棚に追加