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「すみませんね。うちの軍はいつも麦飯なんで、竜衆のお姫様のお口には合わないかもしれません」
鍋を物珍しげに除く刹琳に、龍乾は嫌味っぽく言った。
「いいえ、とてもおいしそうです。このように湯気の出た食べ物を見るのは初めてなので、驚きました。それに、とてもいい匂いです」
椀に注がれる前の粥を初めて見た。いつもは、食事の時間になると、巫女たちが一品ずつ部屋に運んでくる。毒見を行った状態で運ばれてくる料理は、その時には既に冷めた状態になっている。
(出来立ての料理というものは、こんなにも良い匂いがするのですね)
湯気に乗って運ばれてくる匂いを嗅いでいると、空腹を急に思い出した。よく考えると、里が襲われた後、まともな食事をとっていなかった。目まぐるしい一日だったせいで、空腹だということも忘れていたようだ。
刹琳がお腹をさすっていると、目の前に黒い椀がつきだされた。
「ほら、アンタの分だ」
粥を注いだ椀を持っていたのは、龍乾だった。
「わたくしの分、ですか」
戸惑う刹琳に、龍乾は無理やり椀を持たせた。
黒い漆塗りの椀に、白い粥がなみなみと注がれている。粥と共に渡された匙を持ち、刹琳は粥を見つめた。
「どうした、食べないのか?」
いつまでも食べようとしない刹琳に、龍乾は少し苛立った声で言った。
「あ、いえ、その……」
刹琳は視線を泳がせ、口ごもった。
はっきりしない態度に、龍乾は眉間のしわを深くする。
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