2

1/8
211人が本棚に入れています
本棚に追加
/217ページ

2

 爽やかな風に乗って、油桐花の香りが鼻先をくすぐる。小鳥のさえずりや羽ばたく音が近くで聞こえた。すでに里には静寂が戻っているようだ。  刹琳は心地よい眠りから覚めると、ゆっくりと瞼を開いた。 「気が付いたかい、神姫殿」  視界に飛び込んできた青年の美しさに、一気に目が覚めた。  そこにいたのは、山で出会った青年だった。  青年の背後には庭や里山に咲き誇る白い油桐花や、瑠璃瓦の光る亭が見える。どうやら、ここは陸族当主邸のようだ。  青年の背後には、五色の戦袍を来た五人の男達がいた。彼らは武官だろうか。腰には金色に輝く長剣を下げ、戦袍を着ている。  よく見ると、青年だけが戦袍を着ていなかった。代わりに着ている黄色い衣には、五精竜の刺繍がほどこされている。  彼らが里を救ってくれたのだろうか。刹琳は戸惑いながらも礼を述べようとした。 「この度は、不埒な者達から里を救っていただき――」  そう言いかけた時だった。刹琳は体に感じる違和感に気が付いた。  腕を動かそうとしても動かせない。視線を下げてみると、体には麻縄が巻きつけられていた。腕は後ろに縛られ、動かすことが出来ない。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!