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(黄寿国の皇子……。そのような高貴な方が、どうしてこのような山深い里へいらしたのでしょうか?)  陸族の里は黄寿国の南部に位置している。周囲は高い山に囲まれた渓谷だ。  そんな場所に、わざわざ都から客人が――しかも、王族の人間が訪れるなどただ事ではない。 「なるほど。とうとう、刹琳の力が必要になられたという事ですかな」 「はい。――貴方の大事な姫君を奪いにやってきました」  天翔が言うと、我羅は心痛な面持ちで「そうか」と呟いた。  自分だけが今の状況を把握できていない。刹琳は地に足のつかない不安を覚えた。  二人のやり取りを見守っていると、天翔の視線が刹琳に向いた。 「この国の玉座を奪い取るために、私には刹琳殿の力が必要なのだ」 「わたくしの力でございますか?」 「正確には、刹琳殿の持つ精竜の力だ。貴女がいれば、私は精竜――黄竜を召喚できる」  皇帝のように威厳のある声だった。英知を蓄えた双眸に、刹琳は圧倒された。 「どういうことでございますか、父上」  刹琳は天翔から視線を外し、我羅を見やる。  我羅はじっと押し黙っていたかと思うと、重い口を開いた。 「お前がまだ、赤子だった時のことだ。竜衆に生まれた子として、お前も皆と同じように竜宮参りを行った。そして、時同じくして竜宮参りを行っていたのが、黄寿国の皇子である、天翔様だった」
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