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 竜宮参りとは――建国の頃より伝わる、精竜を体に封じる儀式の事だ。 竜神の加護を受ける黄寿国では、竜神の子である五種類の竜がいる。それらは精竜と呼ばれ、五つの神山に祀られていた。神山に登り、精竜を体に封じる。それが、竜衆と呼ばれる王族を含む有力な部族の子の習わしだ。  六つの部族からなる竜衆の中でも、刹琳は陸族の生まれだった。 「しかし、わたくしの竜宮参りは失敗したと父上は仰っておられたではございませんか」  幼い頃、神姫として神殿に入る前日、父親から告げられたことを思い出す。  ――そなたの中には、精竜がいない。  竜宮参りに失敗したために、精竜を召喚することができない。そう、教えられた。  このことを刹琳が負い目を感じていた理由は、陸族の長の娘だったからだけではない。 【生き神信仰】  竜衆の中でも外界から遮断された里で暮らす陸族には、竜宮参りとは別に独自の文化がある。陸族の信仰対象である生き神は【神姫】と呼ばれ、代々族長の家から選ばれた娘が役目を担っていた。  現在の神姫が刹琳だった。  神姫である刹琳が神姫を祀る神殿へ入ったのは、五つの頃だ。その直前、自分は精竜を持っていないと知り、刹琳は幼ないながらも深い絶望感を覚えた。 「竜宮参りは失敗した。だが、完全に失敗したわけではない。――十八年もの間、陸族と王族は交流を断っていた。そのため、時同じくして天翔様が竜宮参りなさることを知らなかった。それも、まさか刹琳と同じ黄竜の住まう黄岳へ参るとは思わなかった」 「通常なら、生まれてすぐに竜宮参りに行くが、私は母親が過保護なせいで、四つの頃に竜宮参りを行ったのです。だから丁度、陸族の姫君の竜宮参りと鉢合わせてしまった」  四つの頃――ということは、天翔は数えで十六の刹琳と四つ離れた二十歳らしい。
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