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「おや、刹琳殿は竜が苦手なのか」
「竜というよりも、その――高い所が苦手のようです」
今まで高い所に上ったことなど一度もなかったので、自分でも知らなかった。刹琳は口元を押さえ、俯いた。
「刹琳さま、大丈夫でございますか? おい、誰か水は持っていないのか!」
刹琳を気遣う声が、背後からした。
いそいそと鳳李が竜のしっぽから、刹琳のいる首元へ回ってきた。黄竜を囲むように飛ぶ飛竜軍へ呼びかける鳳李を、刹琳は咎める。
「おやめなさい、鳳李。わたくしなら、大丈夫ですから」
「ですが、刹琳さま。鳳李は貴女さまにもしものことがあれば、生きてはおられませぬ」
涙ぐむ鳳李に、刹琳は苦笑する。
「そうだな。少年の言う事も一理ある。刹琳殿にもしものことがあれば、私も生きてはいられない」
刹琳の腹に手を回し、天翔は刹琳を支える。
「私には貴女が必要だ。貴女を大切に思うのは当然のこと。それに、元々、都へ向かう前に一度、町へ立ち寄る予定だったからな。少し予定を早めるだけだから、貴女は気にする必要はない」
耳元で囁かれた刹琳は、蒼白な顔から一転、耳まで真っ赤に顔を染め上げた。
それを見て、飛竜軍たちの方から笑い声が聞こえた。
「どうやら、顔色は戻ったようだ」
「凱清、あまり刹琳姫をからかうようなことを言うな」
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