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「今回の任務は、迅速に決行するために、できるだけ身軽なまま陸族の里へ向かったからね。食料などは最低限しか持っていなかったんだ。都に帰る前に一度、食料の調達に行かせたんだよ」 「と、いうことは、飛竜軍の皆さまは所謂、お買い物をなさっているのですね?」 「ああ、そうだが……刹琳殿は買い物をしたことがないのかい?」  目を少し大きくして、天翔は言った。  何かおかしなことを言ったのだろうかと、刹琳は首をひねる。 「当たり前だろう。神姫であらせられる刹琳さまが、下々の者のように、せせこましく金のやり取りなどを行うわけがないだろう。汚らわしい。むしろ、一国の皇子であるくせに、このように庶民と直接顔を合わせるなど、恥ずかしくないのか」 「おやめなさい、鳳李。天翔様に無礼な口をきくのは許しませんよ」 「うっ、刹琳さま」  刹琳が咎めると、鳳李は渋々と椅子に座りなおした。 (まったく、昔からこの子は変わりませんね)  鳳李は陸家に古くから仕える巫女の家系の生まれだった。竜神の使いの生まれ変わりと言われる神姫の世話は、巫女が行う。同様に幼い神姫の遊び相手も巫女たちだった。しかし、刹琳と年の近い巫女がおらず、そこで遊び相手に選ばれたのが鳳李だ。幼い頃から自分を慕い、後を着いてくる鳳李を刹琳は弟のように可愛がっていた。 (普段は可愛いのですけれど、わたくしに近づく者を例外なく威嚇することはやめて欲しいものです)
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