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たまたま妹が大人びてきたから気色ばんだ連中とは違う。妹を心から大切に愛しく思い、この先も忘れずに生きていけるのは僕だけだ。
…お前もそれが判っているから、ずっと僕の側にいてくれたんだろう?
あの頃のままの姿を形をした妹の霊が僕を見ている。
さあ、もうじき僕もお前と同じ所に行くよ。そうしたら、二人で一緒にもっと遠い所に旅立とう。
心の中で妹に語りかけた途端、この六十年、ただじっと僕を見ているだけだった妹が静かに首を横に振った。
そして、何やら僕の足元を指さす。
反射的にそちらに目を向けると、ちょうど僕の体が入りそうな大きさなどこまでも重々しく暗い黒色の穴が僕の足元に空いていた。
ベッドに横たわっている体はそのままに、僕の魂が穴に向かって引っ張られる。
妹に視線を向ければ、その顔は、六十年見たことのない笑顔になっていた。
お前…お前をこの日を待っていたのか。ずっとずっと僕の側で、僕が地獄に落ちる瞬間を見るために待っていたのか。
暗い穴に引きずられていく僕とは裏腹に、妹の姿はまばゆい光に包まれた。
死んでもずっと一緒。本気でそう思っていたのに、六十年も寄り添っていたのに、僕とお前にこんな終わりが訪れるだなんて。
嫌だ! 僕は、ずっと、お前と一緒に…!
精一杯伸ばした手を妹が冷たい目で見据える。何も話さない妹の心が視線越しに伝わる。
『人殺しと、一緒に行く訳がないでしょう』
…そうか。僕は人殺しだった。殺した相手と同じ所に行ける訳がない身の上だった。
お前を手にかけたあの時点でもう、僕とお前は違うレールに乗っかっていたんだな。
嬉しそうに嬉しそうに、妹は光に包まれ薄れていく。僕は穴ぐらに引き込まれていく。
もう二度と会うことのない永遠の決別。僕の身勝手が招いた別れ。さようなら妹よ。せめて最後まで、僕はお前の姿を刻んで逝こう…。
僕と妹…完
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