第7章

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「面白いだろ? とにかく安く行きたいって奴もいれば、どこどこの寺院が見たいとか、何とか民族の祭りを見に来たとか、ただなんとなく流れに任せてたらここに着いたとか、色んな奴がいて」  そうやってどこかの町に流れ着いて長く留まることを沈没すると言うらしい。旅人の沈没地、大理はそういう町だと言う。確かに妙に居心地がよく、ぼんやりしたくなるのはわかる。  不思議な感覚だった。東京や大連のビルで仕事をしている自分がバックパッカー達の泊まる安宿で沈没することだってあるかもしれないのだ。  …いや、やっぱないかな。3日くらいで飽きそうな気がする。でもどうだろう。東京へ異動希望を出したときの自分だったらそういうこともあるだろうか。 「前もそうだった?」 「うん。ぞぞむと一緒の時は市場行って買い物ばっかしてくるから、担ぎ屋だと思われてた。どこで商売してんの?って訊かれたな」  担ぎ屋とは行商人のことだ。あちこちで商品を仕入れて、また別の場所でそれを売り、それを元手にまた商品を仕入れるといった具合だ。 「担ぎ屋か。それも楽しそうだけど」 「似たようなもんだけどな」  誰かが市場で買いすぎたと分けてくれたマンゴスチンを小さなナイフで切り分けて祐樹にくれる。白い果肉がとろりと甘かった。 「だけどバックパッカーって年齢もけっこうバラバラなんだね」 「日本人は若い子が多いけど、欧米人だとバックパッカーでも年齢は幅広いよな。長期休暇が取れるかどうかなんじゃない?」 「だろうね。休暇が3ヵ月あるっていってた、あのフランス人」  雲南地方のゆったりした民族衣装めいた服装でのんびりくつろいでいた彼は、もうどこの国の人かわからない雰囲気だった。
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