第10章

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「その兄だけね。おれに恋人がいて、一緒に大連に赴任してることは知ってる」 「へぇ、そうだったんだ」  孝弘に家族の話はけっこうしているが、すでにカミングアウトしていることは初めて話した。 「おれから話したと言うよりも、達樹が気づいたっていうか。バレたって言うか」 「どういうこと?」 「こっちに赴任する前に、香港行ったでしょ。それ誰と行って来たんだって問いつめられて」  祐樹らしくない土産をたくさん持って実家を訪れた祐樹に、達樹はずばりと言い当てたのだ。香港、恋人と行ってきたんだろ、と。  恋人に会わせろと迫る兄に、祐樹がもう中国に赴任して日本にいないと言ったらどういうことだと問いつめられて、その場の流れで孝弘との出会いからの経緯を全部話す羽目になった。  その時のことをざっくりと説明したら、孝弘は楽しげな顔でふんふんとうなずきながら聞いていた。 「達樹さんって三男? 一番年が近いお兄さん?」 「そう。おれの四つ上の兄で、今は結婚して都内に住んでる」 「へー、面白そうな人だな。俺も会ってみたい」 「じゃあ、連絡しとく。達樹とは都内で会うことになるかも」 「わかった。祐樹のにーちゃんか……」  何を考えたのか、孝弘はにまにまと笑っている。 「やっぱここは、よくも弟に手を出したなとか殴られるパターン?」 「んな訳ないでしょ」  一体どんな兄を想像しているんだか。殴り合いのケンカも日常だったと話したせいか?
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