第10章

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「あ、実家は親がいるんだろ? 会っても大丈夫?」 「平気だよ。でもカミングアウトしてるのは達樹にだけだから、そのつもりで来てくれる?」 「もちろん。同僚ってことでいいんだよな?」 「うん。ごめんね、本当のこと言ったら、両親はびっくりするだろうから」 「当たり前だろ。謝らなくていいし、うかつに言えることじゃないし、そんなの急がなくていいよ」  急がなくていいよってことは、いつかカミングアウトする気があるってこと? 予告というか仮というか、もうプロポーズの言葉はもらっているし、そういうことだよな。 「うわー、祐樹の両親か。すげー楽しみ」  孝弘は特に気負ったふうもなく、無邪気に喜んでいる。  もしためらうそぶりを見せたら、いつも通り孝弘には都内のウィークリーマンションか彼の実家で過ごしてもらって、東京近郊デートをしようと思っていたのだが、孝弘は本当に楽しげに屈託なく笑った。 「あ、やべ。もう出なきゃ」  いつの間にか家を出る時間になっていた。 「これ、ありがと。ホントに嬉しかった」  慌ただしく触れるだけのキスをして、孝弘が先に立ち上がる。  一緒には出勤しない。孝弘が出てから洗い物をして、だいたい十分くらいあとに家を出る。 そこまで心配する必要はないのかもしれないが、二人で話し合ってそうしていた。    どこか弾むような背中を見送って、祐樹はほっと肩から力を抜いた。達樹に会うことも両親に会うことも、孝弘はまったく躊躇しなかった。  すげー楽しみ。そう言ってくれた。  それがとても嬉しい。  コーヒーを飲み終えて、祐樹は洗い物をしようと立ち上がる。  完  
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