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妄想デート
食料品売り場で、何気なく青い箱が目についた。そのパッケージに、ぱっと懐かしい思い出がよみがえった。
祐樹の北京研修時代のことだ。
「上野くん、これもらったんだけど」
遊びに行ったマンションで祐樹が出してきたのは、レトルトカレーより厚みのある青い箱だった。龍蝦片という文字と海老のイラストが描かれていて、中にはプラスチックみたいなピンク色のチップがぎっしり詰まった袋が入っている。
「これはどうやって食べるの?」
その硬いチップを手に、祐樹は困惑したように首をかしげた。
「龍蝦片ってえびせんの元だよ。よく料理についてくるやつ」
「えびせん? これが?」
目を丸くして指先でチップをつるつると確かめている。かわいいなと思う。年上の男なのに素直な表情がとてもかわいい。
「そう。油で揚げるとふくらむんだ」
「へえ、知らなかった」
半透明の濃いピンク色のえびせんの元は五百円玉くらいの大きさだ。滑らかなプラスチックのようで、知らなかったら食べ物とは思えない。
「揚げてみる? 揚げたてはサクサクでおいしいよ」
「やってみたい。鍋でできる?」
「できるよ。サラダ油で揚げるだけだから」
片手鍋に三センチほど油を入れ、十分高温になったところでピンク色のチップを入れた。
鍋底に沈んだチップからじゅわじゅわと小さな気泡が上がってきて、ほんの十秒ほどでふわっと大きく膨らんで浮いてくる。
「えー、おもしろい。ちゃんとえびせんになってる」
あっという間に二十枚ほどのえびせんが皿に盛られた。
「あ、ぱりぱりしてる。揚げたてっておいしいね」
まだ熱いえびせんを食べて、祐樹が笑った。屈託ない笑顔がうれしかった。
祐樹が好きだなんて自覚していなくて、ただ楽しい気持ちでビール片手にキッチンで揚げたてをつまんで食べた。
そんなことを思い出して、青い箱をカゴに入れた。
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