妄想デート

2/2
600人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
「これ、覚えてる?」  孝弘が出した箱を見て、祐樹は目を細めて懐かしそうな顔をした。 「覚えてるよ。北京のマンションで揚げてくれたやつでしょ」 「そう。スーパーで見かけて買ったんだ」  あの頃、北京ではまだスナック菓子はほとんど売っていなかった。中国製のチョコや飴はたくさんあったけれど、スナック菓子は輸入物がメインで留学生には高価だった。 「寮でも揚げたな。今みたいに日本製のお菓子って手軽に買えなかったから」  大学から日系スーパーまでタクシーで三十分ほどの距離だったから滅多に行くことはなかったのだ。 「いま揚げるの?」 「うん。映画見ながら食べようよ」  あの時のように、あっという間にえびせんが皿に山盛りになる。ビールと一緒にリビングに運んで、ソファで乾杯した。  孝弘の膝枕でテレビを見ていた祐樹が、ふと孝弘の顔を見上げていたずらっぽい笑みを浮かべた。 「本当のことを言うとね、あの時、作り方は知ってたんだ。箱の裏にイラストがあったから」 「え?」 「でも孝弘を引き留めたくて、分からないふりしたんだ」 「そうだったんだ」  中国語初心者の祐樹には説明が読めないと思い込んでいたから、疑いもしなかった。  「本とかビデオを見に来ない?って誘ったり、一人じゃつまらないからって食事に誘ったり、結構あの手この手で妄想デートしてたんだよ」  思いがけない打ち明け話に孝弘はまじまじと祐樹を見た。二人で出かけた時にはこっそりデート気分を味わっていたという話はすでに聞いていたが、思っていた以上にたくさん妄想デートをしていたらしい。  なんだよもう、ひと言いってくれればいくらでも本気のデートしたのに。  体を起こした祐樹が手を伸ばしてきて、孝弘の頭を抱き寄せる。素直に引き寄せられてキスをしたら、ビールとえびせんの味がした。 「その妄想デートで俺はどんなことをしてたの?」  ふと思いついて尋ねたら、祐樹は一瞬黙って、それからポーカーフェイスで微笑んだ。 「えー、それは教えてあげられないな」 「言えないようなことしてたのかよ」  おでこをくっつけた祐樹が楽しそうに「そりゃあ、大人ですから」とうそぶく。当時は学生だった孝弘に遠慮したらしいが、十分大人だったと言いたい。 「今だって、孝弘が思いつかないような妄想してるかもよ?」  祐樹は孝弘の手を取って、ちゅっと指先に口づけた。 「大人になってくれてよかったな」  こういう時の祐樹は艶めいていて、孝弘はまいったなと眉を下げた。さっきまではかわいかったのに、この変わり身はどういうことだ? 「ほんと、大人になってよかったよ」  ぐいっと祐樹を抱き寄せて、ソファから引っ張り上げた。立ち上がった祐樹のシャツの下に手を忍ばせて、手のひらで肩甲骨を確かめる。 「妄想、実現してみる?」 「いいね」  くすぐったそうに肩をすくめながら、祐樹が笑った。  完  とってもお久しぶりの孝弘×祐樹です(^^;  これはSSクイズ景品でリクエストがあって書きました。 (SSクイズについては『短編集』に作品をまとめてあります)  リクエストテーマは「孝弘×祐樹のおうちでまったりデート 孝弘視点」でした!  久しぶりに孝弘×祐樹を書いて、すごく楽しかったなあw   名刺画像も『短編集』に載せているので、よろしければご覧くださいm(__)m  大連デイズの続きも書こうと思いながら、別の作品を書いていて、なかなか手を付けられていません(T_T)  短編だけでも書こうかな?  公開したら、ぜひ遊びに来てくださいねm(__)m  2021.11.13  ゆまは なお    
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!