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「これ、覚えてる?」
孝弘が出した箱を見て、祐樹は目を細めて懐かしそうな顔をした。
「覚えてるよ。北京のマンションで揚げてくれたやつでしょ」
「そう。スーパーで見かけて買ったんだ」
あの頃、北京ではまだスナック菓子はほとんど売っていなかった。中国製のチョコや飴はたくさんあったけれど、スナック菓子は輸入物がメインで留学生には高価だった。
「寮でも揚げたな。今みたいに日本製のお菓子って手軽に買えなかったから」
大学から日系スーパーまでタクシーで三十分ほどの距離だったから滅多に行くことはなかったのだ。
「いま揚げるの?」
「うん。映画見ながら食べようよ」
あの時のように、あっという間にえびせんが皿に山盛りになる。ビールと一緒にリビングに運んで、ソファで乾杯した。
孝弘の膝枕でテレビを見ていた祐樹が、ふと孝弘の顔を見上げていたずらっぽい笑みを浮かべた。
「本当のことを言うとね、あの時、作り方は知ってたんだ。箱の裏にイラストがあったから」
「え?」
「でも孝弘を引き留めたくて、分からないふりしたんだ」
「そうだったんだ」
中国語初心者の祐樹には説明が読めないと思い込んでいたから、疑いもしなかった。
「本とかビデオを見に来ない?って誘ったり、一人じゃつまらないからって食事に誘ったり、結構あの手この手で妄想デートしてたんだよ」
思いがけない打ち明け話に孝弘はまじまじと祐樹を見た。二人で出かけた時にはこっそりデート気分を味わっていたという話はすでに聞いていたが、思っていた以上にたくさん妄想デートをしていたらしい。
なんだよもう、ひと言いってくれればいくらでも本気のデートしたのに。
体を起こした祐樹が手を伸ばしてきて、孝弘の頭を抱き寄せる。素直に引き寄せられてキスをしたら、ビールとえびせんの味がした。
「その妄想デートで俺はどんなことをしてたの?」
ふと思いついて尋ねたら、祐樹は一瞬黙って、それからポーカーフェイスで微笑んだ。
「えー、それは教えてあげられないな」
「言えないようなことしてたのかよ」
おでこをくっつけた祐樹が楽しそうに「そりゃあ、大人ですから」とうそぶく。当時は学生だった孝弘に遠慮したらしいが、十分大人だったと言いたい。
「今だって、孝弘が思いつかないような妄想してるかもよ?」
祐樹は孝弘の手を取って、ちゅっと指先に口づけた。
「大人になってくれてよかったな」
こういう時の祐樹は艶めいていて、孝弘はまいったなと眉を下げた。さっきまではかわいかったのに、この変わり身はどういうことだ?
「ほんと、大人になってよかったよ」
ぐいっと祐樹を抱き寄せて、ソファから引っ張り上げた。立ち上がった祐樹のシャツの下に手を忍ばせて、手のひらで肩甲骨を確かめる。
「妄想、実現してみる?」
「いいね」
くすぐったそうに肩をすくめながら、祐樹が笑った。
完
とってもお久しぶりの孝弘×祐樹です(^^;
これはSSクイズ景品でリクエストがあって書きました。
(SSクイズについては『短編集』に作品をまとめてあります)
リクエストテーマは「孝弘×祐樹のおうちでまったりデート 孝弘視点」でした!
久しぶりに孝弘×祐樹を書いて、すごく楽しかったなあw
名刺画像も『短編集』に載せているので、よろしければご覧くださいm(__)m
大連デイズの続きも書こうと思いながら、別の作品を書いていて、なかなか手を付けられていません(T_T)
短編だけでも書こうかな?
公開したら、ぜひ遊びに来てくださいねm(__)m
2021.11.13
ゆまは なお
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