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風の強い日
ふわりと意識が浮かんだら、すぐそばに温かい体が寄り添っていた。孝弘の体温を感じて、祐樹の口元が微笑んだ。
ゆうべは一人で寝たはずなんだけど。いつの間に来たんだろう。
記憶を探ると、うっすらと夜中にごそごそと布団に潜り込んでくる気配がしたような気がする。
「ちょっとつめて」とそっとささやかれ、触れるだけのキスをされた。やさしいキスがうれしくて、髪を撫でる手のひらにすり寄った。
そう言えば、何か夢を見たような気もする。ふんわりと懐かしい気持ちが残っている。何だったかな?
起きかけのゆるい思考はやわらかいゼリーのように形があいまいで、はっきりとつかめないままとけてしまった。
まあいいか。
穏やかな孝弘の呼吸につられるように、祐樹はまた眠りに誘われて行く……。
目が覚めたのは、八時を過ぎる頃だった。
孝弘はもう隣にいなくて、祐樹はぼんやりと一人のベッドで起き上がる。誰もいないシーツを見て、あれは夢だったのかと残念に思いながらキッチンに行ったらコーヒーのいい香りがした。
「おはよう、祐樹」
部屋着の孝弘がボールに入れた泡立て器を振っていた。
「おはよ。夢じゃなかったんだ」
「何が?」
「夜中に目が覚めたら隣にいたのに、起きたらいなかったから、来たのは夢かと思ってた」
まだなんとなく頭が覚めていなくてぼんやりしている。
孝弘は手を止めて、祐樹に両腕を回すとかるいキスをした。ふわりとコーヒーの味がする。ちょっと物足りない。もっと孝弘を感じたいのに。
でも孝弘はすっきりした表情で、そんなことを思っていないようだ。
「六時ごろ目が覚めたら、なんか眠れなくなって起きたんだ」
「うん」
ぼんやりしたままうなずくと、孝弘が苦笑するような笑みを浮かべる。
「寝起きの祐樹ってかわいいな」
唇を寄せてきて、ちゅっとやさしく口づけられる。もっとと思ったのを見抜かれた気がして、恥ずかしくなって目線をそらした。
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