第3章

2/27
602人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
 祐樹の部屋のデスクの引き出しには孝弘の部屋の鍵がしまってある。  鍵には七宝焼きの亀のキーホルダーがついていた。孝弘とお揃いで香港で買ったものだが、誰かにお揃いだと見咎められると面倒だということで、持ち歩かずにそれぞれ部屋で保管している。  互いの部屋の鍵も自宅の鍵と一緒にしておくと、誰の部屋の鍵だと突っこまれかねないので別にしているのだ。  マンションの同フロアだから、一旦自分の部屋に寄るのは大した手間ではない。  祐樹は孝弘との関係にはとても注意を払っている。親しい同僚であることは隠していないが、必要以上に親しいと思われるのは避けたい。  孝弘が大事だからおかしな噂が立つのは困るし、それ以上に二人が警戒しているのは女性相手の対応だ。  一流企業勤めで見た目もよく独身の二人は結婚相手としては超優良物件だから、そういう視線には敏感にならざるを得ない。  好きな人がいると言ってもいいが、そうなると相手は誰だとか呼び寄せて結婚しろだとか面倒なことになるので、今のところ仕事が忙しくてそれどころじゃないという言い訳で通している。  実際、仕事は毎日忙しく、土日もなんだかんだと出勤したり、駐在員社会の交流イベントがあったりで丸々休むことはあまりない。  それでも祐樹にも孝弘にも果敢にチャレンジしてくる女性社員はいた。  現地採用の女性スタッフは優秀で、できれば揉め事にはなりたくない。祐樹は質問されたら「結婚相手は感覚の合う日本人がいいですね」ときっぱり言うことにしている。  日本人的にあいまいな言い方では通じないので、はっきり言う方がトラブルを起こさないともう学んでいる。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!