第3章

3/27
600人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
 恋人を紹介しようというお節介を焼きたがる中国人が多いのが意外だったが、それにも「言葉や文化が違うと大変なのでつき合うなら日本人がいいです」と断っている。  祐樹の北京語は駐在員にしてはまあまあというレベルで、簡単な日常会話は不自由しないが込み入った話はできない。言葉が通じなくて家で寛げないのは嫌だと言うと「そうだな」とたいてい理解してくれる。 「上野くんも高橋もそうだけど、独身男性は何かと狙われるから身辺には気を付けろよ」  妻子とともに赴任して来た青木は笑うが、家庭持ちの駐在員が気楽かと言うとそうでもなく、駐在員妻社会、子供社会はまた別の意味で気苦労があるようだ。会社のステータスが妻子のステータスになり、人間関係に響いてくるのだ。  もちろんそんなことに関わることなく駐在生活を楽しんでいる家庭も多いが、現地スタッフと不倫だの単身赴任駐在者がメイドと偽って愛人を囲ったりすることもあり、会社はそういう方面でも気を遣う。  もちろんそれは中国に限ったことではないが、いずれにしても祐樹と孝弘にとっては遠ざかっておきたい事柄だった。  以前、北京で研修を受けていた時の先輩同僚の鈴木はたいそうな遊び好きで、孝弘を女性のいる店に連れて行ったりした。  まだ学生の孝弘は女性がその手のサービスをしてくれる店に行ったのは初めてで、とても困ったらしい。と言うことを後から知って、当時の北京事務所の責任者の安藤が「未成年の留学生をそんなところに連れこむな」ときつく叱り飛ばしていたのを祐樹も目にした。  そう言えば、とても困ったという話は聞いたけれど、実際あの時孝弘はどうしたんだろう?と思い出したのは、接待用に女の子のいる店を探しておいてと頼まれているのを耳にしたからだ。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!