第3章

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   9月の月餅売り場はものすごい混雑だ。  中秋節には親戚や親しい友人、会社の上司などにも月餅を贈る習慣があり、9月後半から月餅の箱を手に挨拶に来る人が多くなる。  互いに贈りあうので中国全土でその数は膨大なものとなり、当然そんなに多くを食べきれるわけもなくほとんどが廃棄されることになる。  だからこそ「過剰に贈りあうのはやめましょう」というニュースも流れるのだが、面子重視の中国社会、なかなかそうもいかないのだ。 「孝弘、今までどうしてたの?」 「餡子そんなに好きじゃないしほとんど断ってた。それに俺が一人暮らしってみんな知ってるから、くれても1個2個とかで、こういう箱入りのなんかもらったことない」 「そうだったんだ」 「でもこうやって駐在員だとやっぱり箱入りとかで、断れない感じになるんだな」 「そうなんだよね。広州でもいらないって断ってたけど持って来られたら持って帰れとは言えないんだよ」  広州でも結局、最後にはゴミ袋に入れることになった。中国人の同僚にそっと尋ねてみたら彼もそうしているという話だったから、珍しいことではないようだ。 「だよな。やっぱ捨てるしかないかな」 「んー、そうかも」  顔を見合わせて二人でもう一度、ため息をついた。
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