第3章

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 今年の中秋節は10月5日だった。  中秋節は農歴(ノンリー)(旧暦)の祝日だから毎年日付が変わる。  今年は10月1日の国慶節(建国記念日)と重なって、この休暇中に祐樹は孝弘と雲南省に行っていた。櫻花公司の工房に行ってみたいという祐樹に応えて孝弘が手配してくれたのだ。  5日は夕方に大連に帰ってきて、買ってきた惣菜で簡単な夕食を食べた後、祐樹の部屋でまったり過ごした。旅行の興奮がまだ残っていて、二人でゆっくり風呂に入ってたくさん話をした。  風呂に入ると言っても外国人向けマンションのこの風呂はいわゆる西洋式で、日本のような洗い場はついていない。  当然、追い炊き機能もないので、こうしてゆっくり入るときはぬるくなると少しずつ湯を抜いて、熱い湯を足すといった具合だ。 「やっぱり湯船っていいね」 「マジでな。やっぱ日本人は湯船だよなー」  夜でも20度を超える暖かさだった雲南省から大連に戻ってきたら、乾いた空気がとても寒くすうすうする感じがした。  雲南省では空気がしっとりと潤っていて草も木も青々と茂っていたなと、大連のぱりぱりと乾燥した空気を吸い込みながら思う。さすがに身体が冷えた感じがしたから、あたたかい風呂はほっとする。 「昨日は水シャワー浴びてたのにな」 「水シャワーもあそこでは気持ちよかったけどね」 「またああいうとこ、泊まりたい?」 「うん。結構楽しかった」  今回の旅行で二人が泊まっていたのはホテルではなく、バックパッカーが使う安宿だった。祐樹が泊まってみたいとリクエストしたのだ。
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