第1章

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 18歳から一人で外国暮らしをしているせいなのか、孝弘は自分の気持ちを言葉に表すことを惜しまない。言葉の通じない海外生活で、人とコミュニケーションを取るためには言葉にするのが大事だと身に染みているから、面倒がらずにきちんと口に出してくれる。  入社後に海外赴任を命じられて、仕方なく駐在員になった標準的日本人の祐樹は、そんなことを素で言われると照れてしまうのだが、孝弘はまるで平気な顔で好きだと告げてくる。  もっとも祐樹はその気になれば鉄壁のポーカーフェイスを作ることもできた。特に仕事の場面においてその能力はいかんなく発揮されて、社内では祐樹は仕事の出来る男で通っている。  それなのに孝弘にはそれが通用しない。    いや、孝弘の前ではそんな必要がないのでリラックスしているだけだ。 「うん、ありがと。おれも会えてうれしい」  ほんの3日会わなかっただけなのだが、やっぱりうれしくて素直な気持ちを口にした。孝弘が体を傾けて祐樹の頭にキスをして「俺も」と小声を落とした。  そのやりとりをレオンはにやにやと楽しげに眺めている。  香港人のレオンにとって恋人同士が親密に触れあって愛を囁くのはごく当り前のことで、目の前の光景はべつに驚くことでもめずらしいものでもない。  ただ、そんな場面を見せたことのない孝弘の、祐樹に対する態度がほほえましくて、ついついにやけてしまうのだ。孝弘が嫌そうな顔でレオンを睨んでも、にやりと笑って肩をすくめるだけだ。 「ところで祐樹、晩飯は予定あんの?」 「いや特に。前乗りだから北京事務所にも特に連絡してないよ」  連絡すれば必ずと言っていいほど、宴会状態の食事に誘われることはもうわかっていた。 「じゃあみんなで飯行こうか」 「いこーよ。そのために祐樹さんに声かけたんだから」  レオンと祐樹が一緒に食事をするのは初めてだった。  香港のホテルのバーで一緒に飲んで以来、レオンと祐樹が会うのはまだ2度目だ。でもレオンはずいぶんと祐樹を気に入っている。  見た目に反して皮肉屋で辛辣なレオンが祐樹を気に入ったのが孝弘としてはかなり嬉しい。
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