第1章

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 手早く戸締りをして外に出た。 「だいぶ涼しくなったな」 「うん。秋の北京がいちばん気持ちいいよね」  10月半ばになりけっこう寒い日も増えてきたが、今日は一日晴れていて日差しが暖かかった。それでも日が落ちれば、湿度のない北京では一気に気温が下がる。  夕食はレオンのリクエストで羊のしゃぶしゃぶになった。どうせだからおいしい店に行こうとタクシーを飛ばして15分ほどの専門店に行く。 「はい、じゃあ再会を祝してかんぱーい」  燕京ビールで乾杯して、レオンは楽しそうに笑う。  テーブルの上には丸いロール状にスライスしてピラミッド形に積み上げられた羊肉や野菜や薬味の小皿が所狭しと並んでいる。 「あー、羊肉(ヤンロウ)、久しぶり」 「おれ、初めて食べるよ。羊のしゃぶしゃぶ」 「そうだった? そっか、冬の食べ物だもんな」  祐樹が北京に研修に来ていたのは5月から半年足らずの間だった。冬の北京名物だから食べる機会がなかったのだ。 「この調味料を自分で好みの味に調整して食べるんだ」 「祐樹さん、香菜(シャンツァイ)は平気? ピーナッツも入れるとおいしいよ」  孝弘とレオンに教わりながら薬味を小鉢に入れてたれを作った。  中央に火が入るドーナツ状の鍋に食材を次々入れて食べながら、ビールが進む。 「大連は北京よりもっと寒いでしょ? 祐樹さん、寒さに強いほう?」 「そんなに。だんだん寒さを実感してるとこ」  広州や深センに赴任していた祐樹には、大連の寒さはなかなか慣れないようだ。
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